大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成5年(ワ)2076号 判決

原告 ユーリカ・マーケティング・インコーポレーティド

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 高野隆

右訴訟復代理人弁護士 大塚嘉一

被告 マックコーポレーション株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 岡部博記

同 山口修司

同 戸塚健彦

右訴訟復代理人弁護士 相澤貞止

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の申立て

一  原告

1  主位的請求

被告は、原告に対し、四万八七八五・七五ポンド及び六八五〇ドル並びに以上の金員に対する平成五年一二月一五日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告は、原告に対し、一二六二万八一〇八円及びこれに対する平成一一年九月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、原告が、主位的請求として、被告に対して売り渡したという別紙物件目録一及び二記載の洋酒(以下「第一洋酒」及び「第二洋酒」といい、原告主張の第一洋酒の売買契約を「第一売買契約」、第二洋酒の売買契約を「第二売買契約」という。)の売買残代金の支払を、予備的請求として、第一、第二売買契約が認められない場合には、被告が原告の引き渡した洋酒を転売し、原告の損失において利得を収めていると主張して、不当利得の返還を求めるのに対して、被告が、売買代金を支払済みの第二洋酒及び原告から別途買い受けた別紙物件目録三記載の洋酒(以下「第三洋酒」といい、当該洋酒の売買契約を「第三売買契約」という。)の引渡しを受けていないので、原告に対する当該売買代金に相当する損害賠償請求権をもって原告主張の第一、第二売買契約の残代金債権ないし不当利得返還請求権と相殺すると主張して、原告の本訴請求を争っている事案である。

二  前提となる事実(いずれも当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告は、アメリカ合衆国ニューヨーク州法に準拠して設立された酒類の輸出入を業とする法人である。

(二) 被告は、酒類の販売等を業とする株式会社である。

2  第一洋酒に関する取引経過

(一) 被告は、平成二年四月三〇日、原告に対し、トミントール一〇〇ケース及びホワイトアンドマッケイ四〇〇ケースを買い付けるべく注文した。

(二) これに対し、原告は、被告の(一)の注文を承諾し、被告に対し、その船荷証券(乙六の2)を発送したが、被告に引き渡すべき洋酒の種類・数量を誤り、第一洋酒を船積みしてしまい、同年七月三一日、被告に対するファックス文書(乙四、五)でその旨の通知をした。

(三) 被告は、同年八月二〇日ころ、右船荷証券を提示して、原告の船積みしたコンテナを保税倉庫に搬入したが、船積みされていた洋酒が第一洋酒であったため、通関させることができず、そこで、原告に対し、第一洋酒の送り状の発送を求めたところ、原告は、被告に対し、その送り状(乙六の3)を送付した。

(四) 被告は、右送り状に基づき、保税倉庫に搬入した洋酒のうち、トミントール二〇〇ケースの通関手続を済ませ、これを受領した。その売買代金は、一万五九〇〇ポンドである。

(五) 次いで、被告は、平成四年九月ころ、残りの第一洋酒の通関手続を済ませ、これを保税倉庫から出庫し、その後、第三者に転売した。

(六) 右転売による被告の利得は、転売代金二二五三万三三六〇円から、諸費用一〇五八万四四二七円を差し引いた残額一一九四万八九三三円である。

3  第二洋酒に関する取引経過

(一) 被告は、平成元年一一月三〇日及び平成二年一月五日の二回にわたり、原告に対し、第二洋酒のうち一一〇ケース分を買い付けるべく注文した。

(二) これに対し、原告は、船積用コンテナの規格上、一二〇ケースを船積みする必要があるため、被告の注文数量を超える一〇ケースを増加するとして(当該一〇ケースについて売買契約が成立したか否か、また、その船積みされた洋酒が第二洋酒であったか否かはともかく)、被告に宛てて洋酒を船積みして発送した。

(三) 原告の船積みした洋酒は、香港を経由して東京に送られたが、被告は、平成二年一一月二〇日、東京に到達した洋酒を保税倉庫に搬入したところ、その洋酒は、第二洋酒ではなく、デ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースであった。

(四) 被告は、平成四年一一月ころ、デ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースを保税倉庫から出庫し、その後、第三者に転売した。

(五) 右転売による被告の利得は、転売代金一一七万六〇〇〇円から、諸費用四九万六八二五円を差し引いた残額六七万九一七五円である。

4  第三洋酒に関する取引経過

被告は、平成二年一月二六日、同年五月八日、同年六月二八日及び同年七月二三日の四回にわたり、原告に対し、第三洋酒を買い付けるべく注文し、原告も、そのころ、これを承諾した。

5  被告の原告に対する代金の支払状況

(一) 第一洋酒について

被告は、トミントール一〇〇ケース及びホワイトアンドマッケイ四〇〇ケースの代金として四万二五五〇ポンドを支払ったが、原告は、そのうち一万五九〇〇ポンドをトミントール二〇〇ケース分の代金に充当し、残額二万六五五〇ポンドを返還した。

(二) 第二洋酒について

被告は、第二洋酒のうち一一〇ケース分の代金七万五三五〇ドルにつき、当時の邦貨に換算して一〇九〇万六五七〇円を支払った。

(三) 第三洋酒について

被告は、第三洋酒の代金全額である七三万六一〇〇フラン及び一八万六〇〇ポンドにつき、当時の邦貨に換算して合計六六〇〇万四五九九円を支払った。

三  本件訴訟における争点

1  主位的請求に関する第一の争点は、第一洋酒に関する原・被告間の売買契約の成否であるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、次のとおりである。

(一) 原告

(1) 原告は、被告に誤って第一洋酒を発送したが、その旨を記載した前記ファックス文書を送信して、売買の目的物を第一洋酒に変更する旨を申し入れたところ、被告は、これを承諾し、原告に対し、改めて第一洋酒の受取人を被告とする前記送り状(乙六の3)の発行を求めたので、これにより第一売買契約が成立した。

(2) 仮に被告が承諾していないとしても、被告は、原告と取引関係にあったところ、原告が被告に第一洋酒の前記送り状を送付し、その売買契約の申込みをしたのに対し、その申込みを拒絶する旨の通知をしなかったから、商法五〇九条により、第一売買契約が成立した。

(3) 仮に右主張が認められないとしても、被告は、平成二年一〇月一五日までに第一洋酒(ただし、被告が通関手続きを済ませて受領したトミントール二〇〇ケースを除く。)を返品することができなかったときは、第一洋酒の代金全額を支払う旨を申し出ていたところ、その期限までに第一洋酒を返品しなかったから、これにより第一売買契約が成立した。

(4) 第一洋酒の売買代金は、別紙物件目録一記載のとおりであるところ、原告は、右売買代金のうち、前提となる事実のとおり一万五九〇〇ポンドの支払を受けたにとどまるので、第一洋酒についての未払代金は、残りの第一洋酒の代金四万九〇八五・七五ポンドから諸経費を控除した残額四万八七八五・七五ポンドとなる。

(5) よって、原告は、主位的請求のうち、第一売買契約に基づく売買代金請求として、被告に対し、右四万八七八五・七五ポンド及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一五日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

(1) 被告は、第一洋酒が保税倉庫に搬入されたままの状態を解消するため、原告に第一洋酒の荷受人を被告とする旨の送り状の発行を求めたにすぎず、これにより原・被告間に第一売買契約が成立したことはない。

(2) 原告は、商法五〇九条による第一売買契約の成立も主張するが、前記送り状(乙六の3)は、被告の注文とは全く異なる商品の送り状であるから、そのような送り状が送られたからといって、被告には、原告に対する同条所定の通知義務はなく、第一売買契約が成立する余地はない。

(3) 原告は、被告が条件付きで第一洋酒の売買代金の支払に応じたとも主張するが、被告は、原告との売買契約に基づき原告に対して多額の損害賠償請求権を有していたので、その支払を受けるために第一洋酒を留置していたものであって、第一売買契約の履行として認容したわけではないから、第一洋酒を原告主張の期限に返品しなかったからといって、第一売買契約が成立するものではない。

2  主位的請求に関する第二の争点は、第二洋酒に関する原・被告間の売買契約の成否であるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、次のとおりである。

(一) 原告

(1) 原告は、平成二年六月七日、被告に対し、第二洋酒のうち一一〇ケース分を船積みする際、船積用コンテナの規格上、一二〇ケースを船積みする必要があったため、被告の注文より一〇ケース多い第二洋酒を船積みして、被告に宛てて発送し、その旨を被告に通知したところ、被告は、同月一二日、これを了解した。

(2) 原告は、右売買代金のうち、前提となる事実のとおり一一〇ケース分の代金の支払を受けたにとどまるので、第二洋酒についての未払代金は、残り一〇ケース分の代金六八五〇ドルとなる。

(3) よって、原告は、主位的請求のうち、第二売買契約に基づく売買代金請求として、被告に対し、右六八五〇ドル及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一五日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

被告は、第二売買契約で原告から買い受ける数量を一二〇ケースに変更することを了解したことはない。

3  主位的請求に関する第三の争点は、第一、第二洋酒の売買代金債権と被告主張の反対債権による相殺の当否であるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 被告は、原告に対し、前提となる事実のとおり第二洋酒の売買代金として一〇九〇万六五七〇円を支払っているところ、原告から引き渡されたのは、第二洋酒ではなく、デ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースであったから、原告の債務不履行を原因とする当該売買代金に相当する一〇九〇万六五七〇円の損害賠償請求権を有する。

(2) また、被告は、原告から第三洋酒を買い受け、前提となる事実のとおりその売買代金として六六〇〇万四五九九円を支払ったが、原告から第三洋酒の引渡しを受けていないので、前同様、当該売買代金に相当する六六〇〇万四五九九円の損害賠償請求権を有する。

(3) 被告は、平成七年三月六日の本件第七回口頭弁論期日に、原告の主位的請求に係る売買残代金債権(1の(一)(5)の四万八七八五・七五ポンド及び2の(一)(3)の六八五〇ドル)と右(1)、(2)の損害賠償請求権(ただし、右(1)、(2)の合計七六九一万一一六九円からその後の前提となる事実3(五)の転売利益六七万九一七五円を控除した七六二三万一九九四円)とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(4) この点について、原告は、船荷証券の物権的効力を理由に、被告が原告から第二洋酒、第三洋酒の引渡しを受けていないと主張することは許されないように主張するが、第二洋酒については、コンテナ取引として行われ、その取引に用いられた船荷証券は、原告が主張する物権的効力を生ずる船荷証券ではなく、その表面に「品物ないし明細は荷送人の提供」という、いわゆる「不知文言」が記載されていた船荷証券であって、このような船荷証券は、コンテナ自体の受け取りを証明することはできても、コンテナ内の貨物が船荷証券に記載されたとおりの貨物であることまで証明するものではなく、本件で被告が右の主張をすることは許される。また、第三洋酒については、被告は、原告から船荷証券の引渡しを受けたものの、当該船荷証券に記載された運送人も、第三洋酒を船積みしたという船舶も実在しない、偽造された船荷証券であって、そのような船荷証券では、物権的効力が問題となる余地はない。

(5) 原告は、被告が品違いがあったことを通知していないことを理由に、(1)の損害賠償を請求することはできないと主張するが、国際海上物品運送法の規定は、海上運送人に対する責任関係を規律する法規であり、売買契約の当事者間においては適用がない。また、商法五二六条の規定も、売買契約の目的物と全く異なるものが給付された場合には適用がないと解されているところ、原告から第二売買契約の目的物として引き渡された洋酒は、第二洋酒とは全く異なる洋酒であるから、同条の適用もない。

(二) 原告

(1) 原告は、第二洋酒についても、第三洋酒についても、海上運送人から当該洋酒を船積みした旨の船荷証券の発行を受け、これを被告に交付し、被告は、これを確認して信用状を決済しているのであるから、船荷証券の物権的効力からして、当該洋酒の引渡しを受けなかったと主張することは許されず、被告主張の原告に対する損害賠償請求権は生じない。

(2) この点について、被告は、右船荷証券が物権的効力を生ずる船荷証券ではないなどと主張するが、右船荷証券は、いずれも適式の船荷証券であって、物権的効力を生ずる船荷証券であることは明らかである。

(3) また、商法五二六条及び国際海上物品運送法一二条によれば、買主は、品違いがあれば、直ちにその旨を売主に対して通知すべきであり、そうでなければ、売主や運送会社に対して損害賠償の請求をすることは許されないが、被告は、原告に対し、原告から第二売買契約の目的物として引き渡された洋酒が第二洋酒と異なる洋酒であったことを通知していないから、(一)の(1)の損害賠償の請求をすることはできない。

4  予備的請求に関する第一の争点は、第一、第二売買契約が認められない場合における原告の被告に対する不当利得返還請求権の有無であるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、次のとおりである。

(一) 原告

(1) 第一、第二売買契約が認められない場合、被告は、前提となる事実のとおり、原告が被告に宛てて船積みした洋酒を保税倉庫から出庫し、その後、これを転売して、第一洋酒の取引に関しては一一九四万八九三三円、第二洋酒の取引に関しては六七万九一七五円の利益を得ている。

(2) よって、原告は、予備的請求として、被告に対し、右不当利得金合計一二六二万八一〇八円及びこれに対する支払催告の後の日である本件口頭弁論終結日である平成一一年九月一七日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告

被告の利得は認める。

5  予備的請求に関する第二の争点は、原告の被告に対する不当利得返還請求権と被告主張の反対債権による相殺の当否であるが、この点に関する原・被告の主張は、要旨、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 被告の反対債権については、3の(一)(1)、(2)、(4)及び(5)に同じ。

(2) 被告は、平成一一年三月五日の本件第二五回口頭弁論期日に、原告の予備的請求に係る不当利得返還請求権(4の(一)(2)の一二六二万八一〇八円)と右反対債権(3の(一)(1)の一〇九〇万六五七〇円、同(2)の六六〇〇万四五九九円の合計七六九一万一一六九円)とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(二) 原告

3の(二)に同じ。

第三  主位的請求に対する判断

一  第一の争点について

1  〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、第一洋酒の取引経過に関し、以下の事実が認められ、この認定を妨げる証拠はない。

(一) 原告は、被告に対し、平成二年七月三一日、前提となる事実のとおり、被告の注文とは異なる第一洋酒を誤って船積みしたことを通知した後、被告の要請に基づき、被告が日本の税関において荷物を受け取るため、第一洋酒の送り状を送付した。

(二) 被告は、同年一〇月四日、原告との間で、被告の注文した種類であるが、数量が増加していたトミントール二〇〇ケースを除く第一洋酒を返品することとし、同月一五日までにその返品ができない場合には、原告請求に係る商品代金全額の支払義務を認める趣旨の合意をした。

(三) ところが、貨物返送依頼状(S-hip back letter)がなければ貨物を返送することができなかったため、被告は、同月七日及び一二日の二度にわたり、原告に対してその送付を求めたが、当該貨物返送依頼状が送付されることになったのは、前記期限から一か月以上が経過した同年一一月三〇日ころになってからであった。

(四) 前記の貨物返送依頼状を受け取った被告は、同年一二月一八日、原告に対し、第一洋酒をC&F(運賃先払い)で返送することになるため、運賃の見積もりを入手し次第連絡する旨通知したところ、原告は、同月一九日、運賃の送金に応じる旨返答した。

(五) そこで、被告は、同月二七日、原告に対し、運賃の見積もりを示し、その支払を求める旨のファックス文書を送信したが、原告は、これに返答することなく、平成三年一月二日、三一日、そして同年三月五日の三回にわたり、運賃の見積もりを連絡するよう求めた。

(六) 被告は、運賃の見積もりを示したにもかかわらず、これに対する原告の返答がないことから、同年四月七日、原告に対し、第一洋酒をC&Fで返送してもよいか否かを尋ねるとともに、返答がない場合には、第一洋酒を没収する旨通知したところ、原告は、同月一〇日、被告に対し、第一洋酒の返送及び船荷証券の原本の送付を求めたが、被告の求めた運賃の支払には応じなかった。

(七) その後、原告は、被告に対し、同月一六日から平成五年八月ころまでの間、二〇回以上にわたり、平成三年四月一五日に被告が第一洋酒を確保して代金を支払うことを約したとして、代金の支払を求めていたが、被告がその支払に応じなかったことから、平成五年一一月三〇日、本訴提起に至った。

2  右認定によれば、原告と被告との間では、被告の注文と異なる第一洋酒が誤って船積みされたことを契機として再三再四にわたり交渉がされているが、その交渉は、第一売買契約の成立を前提とするのではなく、第一洋酒を原告に返品することを前提にしたものであって、また、実際には返品に至っていないが、それは、その返品方法等について一年以上にわたって行われた交渉過程において、返送に要する運賃を原告が支払う旨の合意が成立したため、被告は、原告に対し、見積額を示して運賃の支払を求めていたが、原告がその支払に応じなかったからであることが明らかであって、他に特段の事情のない限り、原告と被告との間で、第一売買契約が成立したと認めることは困難であるといわなければならない。

3  この点について、原告は、まず、第一洋酒を誤って船積みしたことを通知するファックス文書(乙四、五)を送信したことにより売買契約の目的物につき変更を申し入れ、これに対し、被告が第一洋酒の送り状の発行を求めることにより原告の申し入れを承諾したことによって、第一売買契約が成立したものであると主張する。

たしかに、原告が売買契約の目的物を変更する旨を申し入れるつもりで右のファックス文書を送信したものとみる余地はあるが、前記認定のとおり、原告が第一洋酒の送り状を発行した理由は、当該送り状とともに送信されたファックス文書(甲一一)に明記されているとおり、あくまで、被告が第一洋酒を原告に返品する前提で通関させるためであって、その後一年以上にわたって行われた交渉も、第一洋酒の返品を前提とするものであったことなどに鑑みても、被告が、原告に対し、売買契約の目的物の変更を承諾する意思の下に当該送り状の発行を求めたものと認めることはできず、原告の右主張を採用することはできない。

4  次に、原告は、原告と取引関係にあった被告が、原告において第一洋酒の送り状を送付して第一売買契約の申込みをしたのに対し、これを拒絶する通知をしなかったことをもって、商法五〇九条により第一売買契約が成立したものであると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、第一洋酒の送り状は、あくまで、被告において原告から誤って船積みされてきた第一洋酒を通関させるためにその発行を求めたものである以上、その求めに応じた原告においても、売買契約の目的物の変更を申し入れる意思で送り状を送付したものでないことは明らかというべきであり、被告が原告に対して第一洋酒の売買を拒絶する意思表示をしたか否かにかかわらず、商法五〇九条により第一売買契約が成立する前提を欠き、原告の右主張も採用することはできない。

5  さらに、原告は、被告が、平成二年一〇月一五日までに第一洋酒を返品できなかったときは、第一洋酒の代金全額を支払う旨を申し出ており、その期限までに第一洋酒を返品しなかったことをもって、第一売買契約が成立したものであると主張する。

しかしながら、前記認定によれば、被告が、右の期限までに第一洋酒を返品することができなかったのは、原告が、返品に必要な貨物返送依頼状を、その期限に間に合うように送付しなかったためであって、しかも、原告が、右の期限が徒過した後もなお、被告との間で、第一洋酒の返品を前提として交渉を継続していることなどに鑑みれば、右の申し出は、自ら返品の時期を申し出たものにとどまり、その返品ができない場合における第一売買契約の成立を約束したものとまで解することはできないから、原告の右主張も採用することはできない。

6  なお、証拠(甲一六)及び弁論の全趣旨によれば、当時被告において原告との取引に係る交渉を担当していたCが、同年九月二一日、原告代表者に対し、原告に注文した全ての商品の代金を被告が支払うこと及びその債務をC自身が保証することを約していることが認められ、これによれば、被告及びCが、第一洋酒についても、売買契約の成立を認め、その代金の支払を約しているように窺われなくもない。

しかしながら、その直後である同年一〇月四日には、前記認定のとおり、原告と被告とが第一洋酒の返品を合意していることなどに鑑みれば、Cが約束していたのは、被告が原告に注文した正規の洋酒の代金の支払であって、原告が誤って船積みしてしまった被告の注文と異なる第一洋酒の代金の支払まで含むものではなかったとみるのが相当であり、右の事実によっても、第一売買契約の成立を認めることはできない。

7  したがって、第一の争点に係る原告の主張は、いずれも採用することができない。

二  第二の争点について

1  原告が、被告から注文を受けた第二洋酒一一〇ケース分を船積みする際、船積用コンテナの規格上、一二〇ケースを船積みする必要があったため、被告の注文数量を超える一〇ケースを増加してこれを船積みしたことは、前提となる事実のとおりであり、一一〇ケースについては売買契約が成立していることが明らかであるから、問題は、当該一〇ケースについても売買契約が成立しているのか否かである。

2  この点について、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定を妨げる証拠はない。

(一) 被告は、前提となる事実のとおり、平成元年一一月三〇日及び平成二年一月五日の二回にわたり、原告に対し、第二洋酒合計一一〇ケース分を注文したが、その代金は、直ちに支払われた。

(二) 原告は、平成二年六月七日、被告に対し、第二洋酒を載せた船が日本に向けて出港した旨を連絡するとともに、工場のパレットのサイズが変更できず、一一〇ケースではなく一二〇ケースの第二洋酒を発送したので、後で一〇ケース分の送り状を送付する旨を通知した。

(三) 原告は、被告から、右の一二〇ケースの輸送スケジュールを尋ねられたのに対し、同月二五日ころ、第二洋酒一二〇ケース分の送り状、船荷証券及び積み荷リストのコピーをファックスで送信し、同年七月五日には、その原本を発送した。

(四) 原告は、同年八月二四日及び一一月一三日、被告に対し、第二洋酒一〇ケース分の代金の支払を求めていたが、被告はその支払をしなかった。

(五) 被告は、同年一一月一三日に東京に到達したコンテナを、同月一九日に開封し、翌二〇日、保税倉庫に搬入したが、前提となる事実のとおり、その洋酒は、デ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースであった。

(六) 原告は、平成四年一月三一日から平成五年九月七日までの間、二〇回以上にわたり、被告に対し、第二洋酒一〇ケース分の代金の支払を求めたが、被告は、その代金の支払をしなかった。

3  右認定によれば、原告と被告との間では、追加された第二洋酒一〇ケースにつき売買契約を締結する旨の明示的な合意はされていないばかりでなく、被告の注文を超える一〇ケースを追加した理由が、もっぱら原告側の事情によるものであり、被告が一一〇ケース分については、到着した洋酒が第二洋酒でないことを知る前に、取引条件に従い、直ちに代金を支払っているにもかかわらず、追加された一〇ケース分については、到着した洋酒が第二洋酒でないことを知った後からではなく、その前から、数回にわたる催告を受けてもなお、その支払に応じていなかったのであって、被告が、その注文を超えて船積みされた一〇ケース分については、これを買い受ける意思を有していなかったことは明らかである。

4  これに対して、原告は、被告が売買契約の数量を一〇ケース分増加することを了承したように主張する。

たしかに、被告が原告に対して送信したファックス文書(甲七)には、第二洋酒の数量を「一二〇ケース」と表した部分があるが、弁論の全趣旨によれば、右の文書は、原告に対し、第二洋酒の輸送スケジュールを尋ねたものであると認められるから、一〇ケース分の代金の支払を約束するなど、第二売買契約の数量の変更に応じる意思を明らかにしたものではない。また、右の文書を送信した後も、前記認定のとおり、被告には、一〇ケース分の代金を支払う意思が全くなかったことに鑑みると、被告が、売買契約の数量の変更を了承していたものということはできない。

そして、他に原告の右主張を裏付ける証拠はなく、原告が被告の注文を超えて船積みした一〇ケースについてまで第二売買契約が成立したと認めることはできない。

5  したがって、第二の争点に係る原告の主張も、採用することができない。

三  以上説示したところによれば、原告の主位的請求は、第三の争点について判断するまでもなく、理由がない。

第四  予備的請求に対する判断

一  第一の争点について

1  第一洋酒の取引に関して

被告が、原告の引き渡した第一洋酒(ただし、被告が既に売買代金を支払い、その支払を問題にしていないトミントール二〇〇ケースを除く。)の転売により一一九四万八九三三円の利得を得ていることは、当事者間に争いがなく、右の洋酒につき売買契約の成立が認められないことは前記認定のとおりであるから、被告が、法律上の原因に基づかないで、原告の損失により右の利得を得ていることは明らかである。

2  第二洋酒の取引に関して

被告が、デ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースの転売により六七万九一七五円の利得を得ていることは、当事者間に争いがないが、第二洋酒については、一一〇ケース分の売買契約が成立しているので、その成立が認められないのは、残りの一〇ケース分のみである。したがって、原告が売買契約の不成立を理由として返還を求め得るのは、第二洋酒一〇ケース分を被告に引き渡したことを前提とする当該一〇ケース分のの利得でなければならない。

しかるところ、予備的請求において、原告が返還を求めているのは、第二洋酒一〇ケースではなく、被告が実際に荷受けしたというデ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースの転売による利得であって、右六七万九一七五円の利得が第二洋酒一〇ケース分を引き渡したことにより生じたものでないことは明らかであるから、右利得の返還を求めるには、第二洋酒については、その引渡しがなく、デ・カストレーン・ロゼを誤って引き渡していること、すなわち、第二洋酒の売買代金を受領する原因がないことを明らかにした上で、デ・カストレーン・ロゼ一〇ケース分の利得の返還を求めるべきものである。

しかしながら、原告は、予備的請求においても、第二洋酒の引渡しを前提にしているから、右六七万九一七五円の利得は、被告が抗弁として主張する第二洋酒の取引に関して原告が被告に対して賠償すべき損害があるとすれば、その額を減額する要素として斟酌し得るにとどまり、これを第二洋酒一〇ケース分の売買契約の不成立を原因とする不当利得とみる原告の主張には理由がないといわなければならない。

3  したがって、原告は、その主張を前提にすれば、被告に対し、第一洋酒の取引に関する利得である一一九四万八九三三円について不当利得返還請求権を有するにとどまることになる。

二  第二の争点について

1  原告の債務不履行責任の有無

被告は、第二及び第三売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を反対債権として、前項の不当利得返還請求権との相殺を主張しているが、その反対債権の有無は、第二洋酒及び第三洋酒の取引に関して発行された船荷証券の物権的効力のいかんに係るところ、〈証拠省略〉によれば、当該船荷証券には、「品物ないし明細は荷送人の提供」によった旨のいわゆる「不知文言」が記載されていることが認められるので、このような不知文言の記載された船荷証券に、原告の主張する物権的効力があるのか否か、物権的効力がないとすると、原告は債務不履行責任を免れ得ないのか否かが問題である。

(一) 不知文言の記載された船荷証券の効力

船荷証券は、運送品の受領を証し、その引渡請求権を表章する有価証券であり、その引渡しは、運送品の引渡しと同一の効力を有する(国際海上物品運送法一〇条、商法五七五条)から、売主は、買主に対して船荷証券を引き渡せば、目的物の引渡債務を履行したものとして、債務不履行責任を免れるのが原則である。この場合、運送人は、船荷証券の不実記載につき注意を尽くしたことを証明しない限り、船荷証券の所持人に対し、船荷証券に記載された運送品を引き渡すべき責任を負うが(平成四年改正前の国際海上物品運送法九条)、荷送人である売主は、運送品の種類等に関する通告が正確でなかったために生じた損害について、運送人に対する責任を負うにとどまり(国際海上物品運送法八条三項)、船荷証券の所持人である買主に対する債務不履行責任を負うことはない。

しかしながら、船荷証券に不知文言が記載されるのは、国際海上物品運送取引においては、荷送人が運送人に対して運送品の内容を通告したとしても、荷送人が既に運送品をコンテナに積み込んで封印しているなど、運送人において荷送人の通告が正確であるか否かを確認することが不可能な場合が少なくなく、そのような場合にまで運送人に対して船荷証券に記載された運送品を引き渡すべき責任を負わせると、当該取引が成り立たないおそれがあるため、船荷証券に記載されている運送品の内容は、荷送人が申し出たところを記載しているにすぎず、運送人は、その内容のいかんについて責任を負わないとする趣旨であると解されるから、このような不知文言の記載された船荷証券によって取引が行われた場合には、当該船荷証券を交付した荷送人において船荷証券の所持人に対して運送品の内容について責任を負うべきであって、そうでなければ、船荷証券の所持人の利益が害されるのみならず、不知文言を記載した船荷証券による国際海上物品取引も著しく阻害されることになる。

したがって、不知文言の記載された船荷証券には、これを運送品の引渡請求権を表章する有価証券ということができるか否かは別にして、船荷証券一般に認められている物権的効力を認めることはできず、当該船荷証券の引渡しに運送品の引渡しと同一の効力を認めることはできないから、その荷送人である売主は、船荷証券の交付にかかわらず、売買契約の目的物の引渡しを立証しなければ、買主に対する債務不履行責任を免れることはできないというべきである。

(二) そこで、原告が、被告に対し、第二及び第三洋酒を引き渡したことが認められるか否かについて、以下検討する。

(1) 第二売買契約について

証拠(甲九の4、乙一二の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告がロッテルダムで船積みした洋酒は、荷下ろし港である香港を経由して、輸送目的地である東京まで送られたこと、香港において、被通知人である香港のホリウェル・トレーディング社が商品を検査したところ、その商品がデ・カストレーン・ロゼであったこと、東京に到着したコンテナを開披したところ、貨物の中身がデ・カストレーン・ロゼ一〇〇ケースであったことがそれぞれ認められる。

これに対して、証拠(甲六三の2、3)によれば、運送人であるヴォテイナー社の保険部門を受け持つヴァン・オメレン保険会社は、平成六年六月、原告に対し、第二洋酒がロッテルダムを出港したときは、荷物は船荷証券に記載されたとおりの状態であったと断言できるし、香港においても、この荷物は、寄港したときと明らかに同じ状態で出港しており、被告からヴァン・オメレン社に対するクレームもない旨のファックス文書を送信していることが認められる。しかしながら、右のファックス文書にも記載されているとおり、ヴァン・オメレン社は、ヴォテイナー社から本件に関する記録を得られなかったというのであるから、右のファックス文書の内容は記録に基づくものではないこと、しかも、運送人や保険会社が、船荷証券の記載と実際の荷物の同一性を確認するために、コンテナを開封して商品を確認することは考えられないことなどに鑑みれば、ロッテルダム及び香港において船積みされた荷物が第二洋酒であることを断言する右のファックス文書の内容は、直ちに信用することはできない。

したがって、右の証拠によっても、原告が、ロッテルダムから香港に向けて第二洋酒を船積みし、これによって、被告に対して第二洋酒を引き渡したという事実を認めることはできず、他に第二洋酒の引渡しを認めるに足りる証拠もない。

(2) 第三売買契約について

第三売買契約についても、原告が、被告に対して第三洋酒を引き渡したという事実を認めるに足りる証拠はない。

かえって、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、①第三洋酒の船荷証券には、発行者は「オアシスエクスプレスライン」ないし「コーストコンテナライン」、その運送に係る船舶名は「シウダッドデパスティロ」、「ラングウエドック」ないし「トヨマ」、コンテナ番号は「NYKU66631」「CTIU62576」「1-450」「827112-3」である旨の各記載があること、②しかしながら、右の両発行者の代理店は日本に存在せず、被告が日本で荷物を受け取ることはそもそも不可能であったこと、③また、当時、「シウダッドデパスティロ」及び「トヨマ」という船舶は実在しておらず、仮に、それが、実在する「シウダドデパスト」及び「トヤマ」の誤記であったとしても、前者が日本に立ち寄った形跡はないし、「トヨマ」が第三洋酒を船積みしたという平成元年八月二〇日当時、後者は修理中であったこと、④また、「ラングウエドック」は一九九トンの漁船であって、コンテナ船として用いられることはなかったこと、⑤しかも、「NYKU」という番号は、全く別の会社が独自に用いているコンテナ番号であって、その他の者がこれを用いることはあり得ないし、通常七桁の数字が用いられるはずのところ、右の船荷証券には、通常あり得ないはずの桁の番号が記載されていること、以上の事実が認められ、この認定を妨げる証拠はない。

したがって、第三洋酒に係る船荷証券に記載された発行者、船舶名及びコンテナ番号は架空のものであって、原告が第三洋酒を船積みしていないことは明らかであるといわざるを得ない。

(三) 商法五二六条及び国際海上物品運送法一二条の通知義務

この点について、原告は、第二売買契約については、品違いがあった旨の通知がされていないとして、商法五二六条及び国際海上物品運送法一二条により、その損害賠償請求権を有しないものとも主張するが、以下に述べるとおり、原告の主張は、いずれも採用することができない。

(1) 商法五二六条

本条は、商人間の売買において、目的物を受領した買主に対し、目的物の瑕疵または数量不足を通知すべき義務を課すものであるが、品違いの場合には、目的物の保管または供託義務に関する規定が準用されている(同法五二八条、五二七条)のと異なり、本条を準用する規定は存在しない。また、瑕疵または数量不足の場合には、売主の債務は不完全ながら履行されていると解し得るのに対し、品違いの場合には、そのような不完全な履行すらあったとも解されず、このような場合にまで買主に通知義務を課して売主の利益を保護すべき理由は見あたらない。したがって、本条は、目的物の品違いの場合には適用されないと解するのが相当である。

そこで、これを第二売買契約についてみると、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、第二洋酒が高級シャンパンであるのに対し、デ・カストレーン・ロゼは非常に安価なシャンパンであることが認められ、原告が引き渡した洋酒が、単なる銘柄の違いにとどまらず、全く異なる洋酒であったことは明らかであるから、原告主張の通知の有無にかかわらず、被告の原告に対する損害賠償請求が本条により妨げられるものではないというべきである。

(2) 国際海上物品運送法一二条

本条は、荷受人または船荷証券の所持人に対し、運送品の一部滅失または破損があった場合、その概況を運送人に対して通知すべき義務を負わせるものであるが、そもそも、本条は、運送契約に基づき、運送人に対する通知義務を課している規定であり、これを怠ったことにより、売買契約上の債務不履行責任の追及が妨げられるものではない。また、本条は、通知義務を怠った場合の制裁として、運送品が滅失及び損傷なく引き渡されたことを推定するにとどまり、実体法上の損害賠償請求権を消滅させるものではないから、いずれにしても、本条も、被告の原告に対する損害賠償請求を妨げる根拠とはなり得ない。

(四) 以上によれば、第二、第三いずれの売買契約についても、原告が被告に対して債務不履行責任を負うことは明らかである。

3  被告が原告に対して賠償を求め得る損害の額

(一) 第二売買契約について、被告がその売買代金を支払っていることは、前提となる事実のとおりであるから、被告は、その支払った売買代金に相当する損害賠償請求権を有するが、原告からデ・カストレーン・ロゼという品違いの洋酒を受領し、これを転売して利得を得ているので、原告に対して賠償を求め得る額は、右の売買代金に相当する一〇九〇万六五七〇円から右の利得に相当する六七万九一七五円を差し引いた一〇二二万七三九五円である。

(二) 第三売買契約について、被告がその売買代金を支払っていることは、前提となる事実のとおりであるから、原告に対して賠償を求め得る額は、右の売買代金に相当する六六〇〇万四五九九円である。

4  相殺の意思表示及びその効果

被告が、平成一一年三月五日の本件第二五回口頭弁論期日に、原告の被告に対する不当利得返還請求権(一一九四万八九三三円)を受働債権とし、右の損害賠償請求権(合計七六二三万一九九四円)を自働債権として、これを対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著であるところ、両債権は、自働債権につき、その相殺の意思表示に係る催告によって弁済期が到来した右当日、相殺適状に達したと認められるので、受働債権である原告の不当利得返還請求権(一一九四万八九三三円)は、その全部が消滅し、他方、自働債権である被告の損害賠償請求権は、弁済の利益が同じであるから、相殺充当により、受働債権の額(一一九四万八九三三円)を自働債権の額である一〇二二万七三九五円と六六〇〇万四五九九円とに応じて按分した額につき、それぞれ消滅していることになる。

三  以上説示したところによれば、原告の予備的請求も、理由がない。

第五  よって、原告の本訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 齋藤大巳 平城恭子)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例